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福岡高等裁判所 昭和58年(行コ)11号 判決

控訴人(原告) 田川豊平

被控訴人(被告) 八代平野北部土地改良区

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。本件を熊本地方裁判所に差戻す。」との判決を、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正する外原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決四枚目表二行目の「一時利用地」から三行目の「訴えを変更しており」まで「一時利用地指定処分取消の訴えを本件の換地処分取消の訴えに交換的に変更したものであるが、」と改める。

二  控訴人の主張の追加

訴えの変更前の取消請求の対象である行政処分と変更後の取消請求の対象である行政処分が仮令別個のものであつても、これら訴訟物が実質的に同一と認められる場合及び新旧両処分に対する違法の主張が同一で且つ反対の利害関係人が存在しない場合には、新訴は旧訴提起の時に提起があつたものとして訴えの変更が出訴期間経過後でもこれが不適法になることはないものというべきであり、本件もこの場合に該当する。

理由

一  控訴人が原審の昭和五四年一一月二一日の第二二回口頭弁論期日において、一時利用地指定処分取消の旧訴を換地処分取消の訴えに交換的に変更したことは記録上明らかであり、右換地処分は被控訴人が昭和五三年一〇月四日なし、控訴人にそのころ通知されたものであることは、当事者間に争いがない。

二  ところで、訴の変更は、変更後の新請求については新たな訴の提起に外ならないから、右訴につき出訴期間の制限があるときには、右出訴期間遵守の有無は、変更の前後の請求の訴訟物の間に同一性が認められるようなとき又は両者の間の関係から新請求に係る訴を当初の訴提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間遵守の点において欠けるところがないと解すべき特段の事由のあるときを除き、右訴の変更の時を基準とすべきものと解すべきである。

三  土地改良法五三条の五所定の一時利用地の指定は、土地改良事業の工事のため必要のある場合又は土地改良事業における換地計画に基き換地処分を行なうにつき必要のある場合になされるものであり、その指定は、後者の場合はもちろん前者の場合も、原則として、換地処分と同様、換地計画に定められた事項を基準としてなされなければならず(同法五三条の五第二項)、したがつて換地処分によつて確定されるべき位置及び範囲と同一の土地が指定されることがあるが、そもそも一時利用地は、従前の土地につき使用収益権を有する者の右権限を一時停止する代りに別の土地を定め、これについて、換地計画につき都道府県知事の認可がなされ、その旨の公告があるまでを存続期間とする一時的な使用収益権限を付与するものに過ぎず(同法五三条の五第四項)、また一時利用地は換地処分に先行して必ず指定しなければならないものでもない(同法五三条の五第一項)ことから考えて、一時利用地を将来そのまま換地とするため行う処分とまで認めるべき法律上の根拠を見出すことはできない。

一時利用地指定処分と換地処分は共に土地改良事業の過程においてなされる処分であり、両者がたまたま同一の位置、範囲の土地に定められたような場合には、照応の原則等につき共通の違法事由が主張されることはあり得るけれども、このことだけで、両処分の取消の訴えの訴訟物が同一であるとか、換地処分取消の訴えが一時利用地指定処分取消の訴え提起の時に提起されたものと同視し得る特段の事由にあたるものとみることはできない。

四  以上のとおりであつて、本件訴えの変更によつて旧訴である一時利用地指定処分取消の訴は取下げられ、換地処分取消の新訴は、出訴期間経過後のものであつて不適法であるから、右訴えを却下した原判決は正当であり、本件控訴は棄却を免れないから、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢頭直哉 諸江田鶴雄 日高千之)

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